絶望するな。では、失敬


 僕が青森から帰ってきて、最初にしたことは、書店に行って太宰の本を買うことだった。しかし、欲しいと思った文庫の保存状態が悪かったので、この「文豪ナビ」なる、あたりさわりのないものを購入した。この手の本は「安っぽい」気がして、買うのが恥ずかしかったのだが、とにかくなんでもいいので太宰に関するものを読みたかったのと、表紙にでかでかと描かれている「ナイフを持つまえにダザイを読め!!」という煽りが気に入ったのでレジまで持っていくことにした。太宰のおすすめ作品の紹介、『津軽』『斜陽』『人間失格』の原文要約、エッセイ、コラム、そしてなかでも、島内景二氏の描いた『評伝 太宰治』がとてもおもしろかった。なかなか良い構成だと思う。一昔前に「ガイド本」として流行った理由がわかる気がした。


 また、重松清氏のエッセイもしびれる。表紙の「ナイフを持つまえにダザイを読め!!」も、このエッセイのなかに登場している言葉だ。ブンガクというもので、心が病んでいる人間が本当に救われるかどうか保証はないが、ナイフを手にするよりかは希望はあるだろう。太宰が描く劣等感や破壊願望を体感すれば、他人や自分を傷つけることなど稚拙なお遊戯のようにちっぽけに思えてくるはずだから。そして、このエッセイの締めくくりもとてもカッコいいので引用しておきたい。

 太宰治の小説は、書き出しだけじゃなくて、締めくくりもカッコいい。
 もちろん、そのカッコよさは作品を最後まで読んでこそ味わえるものだから、ここでは紹介はしないけれど、一つだけ、ぼくのいっとう好きな――ガキの頃から、「ひとりぼっち」になるたびにそこだけ何十回も読み返した、締めくくりのフレーズを書いておこう。
 『津軽』のラストだ。「きみ」に捧げる。


 < 絶望するな。では、失敬 >


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 では、失敬――。


 ちなみに昭和23年6月13日、今から60年前の今日、太宰は愛人の山崎富栄とともに玉川上水における心中自殺を計っている。その遺体は6日後の6月19日、太宰39歳の誕生日まで発見されることはなかった。