その女、グロテスクにつき



 桐野夏生という作家がいて、『OUT』という代表作があることは知っていたが、この作家が金沢出身の人だとは知らなかった。ついでに、男だと思っていたが女だったことも最近知った。まあそういうのをひっくるめて、読んでみることにした。


 どういう理由があったのか忘れたが、最初に手にとったのが『グロテスク』。正直、上巻は芥川チックな厭世的なモノローグがねちねちと続き、少し退屈に感じないこともなかった。がしかし、下巻に入り、とある中国人の生い立ちを語る場面になると、ぐんぐんと物語に引き込まれていく。この場面は、村上春樹ねじまき鳥クロニクル』の、ノモンハンのくだりを思い出しながら読んでいた。僕はこういう、大陸の貧しく不幸なストーリーに興味を惹かれるのかもしれない。


 最後まで読み終えてみて、とてものめり込んだと言える作品だったと思える。おもしろいというより、のめり込む感じ。また何か別の桐野夏生も読んでみたいと思う。


【以下ネタバレ注意】


 で、読み終えてから知ったのだが、この物語の下巻のほとんどは、いわゆる「東電OL殺人事件」と呼ばれている実際の殺人事件をモチーフに描かれているのだとか。


 この事件は1997年3月に起こっている。昼は東京電力に勤める39歳のエリート・キャリアウーマンが、夜は娼婦として働き、そして殺されたという事件。1997年といえば、僕が大学に出てきた年だ。なんとなく記憶にあると言えばあるが、はっきりとは覚えていない。しかし、世の中的にはちょっとした話題になった事件で、「年収一千万円のOLがどうして売春をしなければいけなかったのか?」とマスコミが煽り立て、被害者、そして被害者家族のプライバシーを容赦なく晒しあげていたらしい。まあ、確かに、人の野次馬心をくすぐる事件ではあると思う。


 ちなみにこの事件の殺人容疑をかけられているのは、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリという男。無実を主張しており、冤罪の可能性も高いとも言われているが、もちろん真相は明らかでない。1997年10月に初公判がはじまり、2000年4月に無罪判決が下るも、同年12月に逆転有罪、無期懲役となる。もちろん弁護団は上告するが、棄却。そして2005年3月24日東京高裁に再審請求を提出したのを最後に、これといった動きはないようだ。彼は今もなお日本の刑務所で暮らしているらしい。


◆東電OL殺人事件無限回廊
◆東電OL殺人事件 無実のゴビンダさんを支える会