『竹下佳江 短所を武器とせよ』感想


 僕が最初、この竹下というセッターを観たとき「ほほう」と目を奪われはしたが、正直好きになれなかった。上手いけど雑だとか、攻撃的だけど無駄が多いとか、中学レベルの知識でダメ出しをしながら観戦していた記憶がある。2003年のワールドカップの頃だろうか。で、その後、日本代表として脚光を浴びたアタッカー陣やヒロインとなったリベロ陣、強いては監督も入れ替わる中、セッターだけはずっと竹下で、「いつまでこのセッターに頼ってんだよ」と、意味もなく閉塞感を感じたりもしていた。


 でも、これらは裏返すと、全部ある意味、嫉妬心なんだと思う。


 まず僕自身、中学の頃セッターをやっており、「(ダントツに)背が低い」という形容詞がついてまわる選手だった。加えて、チーム・カラーも速攻中心コンビ大好きで、オープン攻撃もすべて平行トスという超スピード型の攻撃組み立てだった。つまり僕がやっていたバレーというものが竹下選手のスタイルと類似していたのだ。類似などと偉そうなことは言えないか、僕の理想形が竹下選手だったと言うべきか。だから「羨ましい」というのが根底にあり、最初はおもしろく感じなかったのだろう。「なんだ、俺がやりたかったことをやってる女がいるぞ」と。


 ただ、ずっと竹下のトスを観ていると、やはり感心せざるを得ないわけだ。そして、当時の僕と決定的に違い、竹下選手は決して感情を表に出さない。感情を顔に出さないというプレイ・スタイルは、セッターとして絶対的にカッコイイと思う。1つの得点や失点にいちいち一喜一憂しているようなセッターなど見るに耐えない。そしていつの間にか、これはすごいセッターだな、理想的なセッターだなと確信してしまっていた。


 で、今いろいろ調べてみてはじめて知ったのだが、竹下選手は僕と同じ学年ではないか(もっと年下だと思っていた)。そんな選手が、ロンドン五輪を目指し、日本代表としてトスを上げるわけだから俄然応援していこうと思った。ちなみに「ロンドンオリンピックバレーボール世界最終予選」は5月開催だとか。バレーボールのテレビ放送は、どの局も過剰な演出で嫌気が指すのだが、選手たちには関係ない。割りきって声援を贈りたいと思う。


◆2012ロンドンオリンピックバレーボール世界最終予選


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
身長わずか159センチ。一時引退に追い込まれたこともあった。彼女はいかにして、絶望を希望へと変えたのか?-。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 主軸ー2011年夏ー女子バレーとなでしこジャパン/第2章 栄光ー2010年世界選手権ー銅メダルの闘い/第3章 開花ー最高峰の技術ーマイナスをプラスに転じて/第4章 屈辱ーシドニー五輪世界最終予選ー居場所を探して/第5章 萌芽ー子ども時代からNEC-才能の作られ方/第6章 再生ーワールドカップ2003-女子バレー人気の再燃/第7章 経験ーアテネ五輪ー初めてのオリンピック/第8章 躍動ー北京五輪ー主将としてチームを率いる/第9章 未来ーロンドン五輪への助走ー無私のアスリート

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
吉井妙子(ヨシイタエコ)
スポーツジャーナリスト。宮城県生れ。朝日新聞社に13年勤務した後、1991(平成3)年からフリーとして独立。『帰らざる季節 中嶋悟F1五年目の真実』で1991年度ミズノスポーツライター賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)