則天去私、Let it be、ココロ



『こころ』夏目 漱石


 夏目漱石をはじめて読んだのは、高2のときだね。僕はそれまで『坊っちゃん』や『我輩は猫である』みたいな読書感想文の王道を敬遠してたので、国語の授業の『こころ』で、はじめて日本でもっとも有名な文豪の作品に触れたわけさ。まあ、僕も、さてさて漱石とやらのお話はいかがなもんかいな、とちょっと緊張して授業を聞いていた記憶はあるね。それくらい漱石というのは存在感があったってことだよ。それに『こころ』なんて、この上なくシンプルでストレートなタイトルも、意味深でそそられるよね。


 その後、バスケ部のキャプテンが休み時間とかに文庫本を読んでるのを見て、何してんのとか訊いてみると、いや授業でやった『こころ』がおもしろかったから本買って全部読んでみようと思ってね、とか言うんだよ。これにはまいったね。確かに授業でやった『こころ』はおもしろかったよ。でも、普段からバスケしかやってない人間に、読書感想文でもないのに本まで買わせて読ませるとは、さすが漱石だなってね。で、なんかそのノリで僕も『こころ』を買ったんだよ。まあ僕の場合は読書感想文用に買ったんだけどね。


 で、『こころ』を読むのはそれ以来だね。もちろん、姜尚中氏の『悩む力』を読んだ影響で手に取ってみたわけだが、やはり人間の心理の普遍性みたいなものを感じたね。つまりね、金と女という、この諸刃の剣を生々しく真正面から描いているんだよ。確かに明治の小説だから文体的には少々読みづらい部分もあるが、描かれている描写は100年経った今でもまったく古さを感じないね。多分、これから100年後も、人間という生き物は、金と女にココロを癒され、そして磨り減らされながら生きているんだろうと思うよ。この物語で気づかされること、学ぶべきことは多いと思うよ。