東京エナジー


 少し前の話になるが、久しぶりに東京に行って来たんだ。出張の寄り道でふらりとね。うん、行って来たというより、寄って来たというニュアンスだね。


 その前日は仙台のホテルに泊まってて、朝の9時くらいに仙台を出て、電車で1時間かけて石巻ってところまで行ってたんだ。でもこの1時間たるや、永遠かと思うほど長く退屈な時間だったね。まじ。何も録画してないビデオ・テープでも再生して眺めてるような苦痛すら感じたよ。もちろん、仙台まで戻ってくる1時間もしかりだよ。で、仙台から東北新幹線に乗って、大宮に上陸したんだ。んで、そこから東京駅まで出てくるまでの1時間たるや、文字通り「あっ」という間のものだったよ。大トロの刺身を一切れ食すくらいの瞬間的なもんだったね。


 この時間の感覚を麻痺させてしまうのが、そう、東京なんだよね。まあ大宮は東京じゃないけど、いちいちそんな細かいことは言わないでくれよな。僕の言わんとしてることはわかるだろ。つまりさ、東京という街はそれだけでエンターテイメントだなと思ったってことだよ。退屈なことなんて皆無なんだよ。どこをセレクトしても、そこにはあらゆるジャンルの様々な番組が録画されているビデオ・テープみたいなもんだよ。てか、ビデオなんかじゃなくて、DVDだね、DVD。その規格外的な人の数と、そこから発せられる夢とか希望とか野望とか欲望とか誰もが驚くアイデアとか、もちろんマイナスのパワーも孤独なストレスも全部ひっくるめた個々のエナジーに巻き込まれてしまうと、どっかの穴に落っこちてしまったアリスのように、息つく暇もなく奇妙奇天烈な出来事が目の前に繰り広げられるんだよね。たとえ君がそれを望もうが望むないが、そんなことお構いなしにね。


 ああ、東京だなと思ったよ。まったく。


 滞在時間は約12時間。それは田舎で暮らす1週間分の濃さと深さがあったように思うね。まあもちろん、久しぶりという僕に対しての特別なもてなしもあったからだけどね。つまりさ、こういうことだよ。まだまだ地方と東京の間には、絶対に越えられない壁が存在しているわけだよ。田舎から出てきたミュージシャンがこぞって東京についての切ないバラッドを練り上げるわけもよくわかるよ。