空白を埋めること、繰り返すこと、繋がっていること



【重版予約】『1Q84 book 1』村上春樹


 僕が『1Q84』から得たものは、必ず誰かが空白を埋めること、物事は繰り返すこと、そして繋がっていることの3つだね。


 一度つくられたシステム、完成されたシステムというものはそうそう簡単に崩されないんだなってことを感じたね。例えば、家族というシステム内では、父親が死ねば長兄はその役割を負うことでその家庭は維持されるわけさ。また、会社であれば、1人の人間が辞めても、そのポジションに代わりの人間がしれっと就くことで、何事もなかったかのように次の日からも機能してくわけだよね。それが単なる一プレイヤーであっても、ポストを持った管理職の人間であってもね。ぽっかり空いた空白は、自動的に他の誰かが埋めるようになってるんだ。くぼみに水が流れ込むように自然とね。僕らは、そういったシステムの中に組み込まれ、空いた空白を埋めることを繰り返しながら他人と繋がり成長していくんだと再認識したよ。


 だからストレスなく生きていくには、こういったシステムの仕組みを把握し、身を委ね、組み込まれてしまうことが重要だと感じたね。いわゆる世渡りの上手い人ってのはこの手のタイプだよ、きっと。ただ、危険なのは、そのシステム事態が善なのか悪なのか、組み込まれてしまってからじゃよくわからなくなってしまうってことなんだよね。組織がらみの不正事件なんかも、そこに属している人の善悪の判断が狂ってしまっていたのか、もしくは悪と認識していても流れに逆らえなかった結果なんだと思うね。で、同じようにその善悪の判断が難しいもののひとつが宗教なんだと思うね。


 僕らは基本的にシステムに組み込まれることを嫌悪する。システムに利用されていると考えてしまうからだよ。で、そういう反抗心が別途つくりだすシステムが宗教なんだと思う。僕は別に宗教というものを否定はしないタチなんだけど、この日本という土壌にあるシステムを否定し、そして宗教に頼ってしまったのであれば、それは危険な宗教家となってしまうのではないかと思うね。うん、だからこの日本においては、宗教は限りなくグレーな存在なんだよ。


 つまりまとめるとだね、僕は積極的に世の中の、自分の身のまわりにあるシステムに組み込まれるべきだと思うんだ。そして多くの人と繋がり、多くの知識と経験を得ることに貪欲になるべきなんだ。ただし、そのシステムが悪だとわかったときには、断固としてそこから抜け出さないといけないんだ。断固としてね。僕らは死ぬまで、「どのシステムに身を委ねるべきか?」の選択を余儀なくされ、この選択がいちいち幸せな人生を送れるか否かの分かれ道だと思うんだよ。



【重版予約】『1Q84 book 2』村上春樹