デニーズ、視力、背骨


 デニーズ。


 深夜3時のくせに案外混んでやがる。僕は禁煙席の一角に案内された。そこでは1組の男女が食事をしており、もう1組の男女がドリンクだけで、ノートを開いて一心不乱に何かを書込んでいた。あとは、3人の男女がテーブルにうつぶして、まるで白亜紀からある化石のように深く静に眠っていた。まあ、ここはペッパーランチでないから、爆睡しててもさしつかえないだろう。多分。僕は運ばれてきたビールに口をつける。


 僕は自分の眼のことについて考える。


 30歳になる前に、まあ、なるタイミングでもいいのだが、レーシック手術でも受けてみようと考えている。まあ、そんなことをしたところで、多分、何も変わらないだろうと思う。でも、区切りとして、また、何かの印のようなものを残す意味合いでも眼球にレーザーを当てるのも悪くないだろう。


 僕は二十歳の誕生日を迎えたちょうどそのときに、車の免許を取った。でも、僕にとっての20代という10年において、車の運転がたいしたウエイトを占めていないように、30代の僕にとっても視力なんてものも、たいしたウエイトは占めないのだと思う。でも、アイデアとしては悪くない。20代のうちに失われた視力を取り戻すということは。


 食事をしていた男女はもういなくなっていた。何かを書込んでいる男女は今も相変わらず、何かを書込んでいる。僕が来てから2人はまだ一言も会話をしていない。もしかしたら、同じテーブルに座っているが他人同士なのかもしれない。眠っている3人は今も相変わらず、眠っている。もしかしたら、本当に化石なのかもしれない。僕は帰ることにした。


 明日は、バイクに跳ね飛ばされた友人のお見舞いにでも行こうと思う。彼女は腰椎圧迫骨折で背骨がつぶれているらしいが、さていかに。