病院、同席、単身


 ということで、久我山病院までお見舞いに行ってきた。


エッグアニマル ニョッキ 手ぶらで行くのもナンなので、渋谷のロフトに寄って「エッグアニマル ニョッキ」という雑貨のような観葉植物のようなものを買った。入院中何もすることがないだろうから、葉っぱでも育ててろという意味合いもある。悪くないチョイスだと思う。


 ここ数年、病院に訪れることが多くなっている。どの病院にも画一的な清潔感があり、しかしそこには鈍く、あまったるい空気が妙なバランスで満たされている。僕が向かったのは、整形外科病棟だったので、幾分ライトな空気感だったのだが、まあ、似たようなもんである。


 で、まあ、もしかしたら、くらいに想定していたのだが、実際に指定された病室に着いてみると、彼女のベッドの横に、彼氏らしき人物がいた。めんどくさいな、と僕は思った。僕は、ああどうも、こんにちは、はじめまして、みたいなことを言った。彼もああどうも、みたいなことを言った。彼の右腕にはタトゥが入っていた。彼女はけらけら笑っていた。


 こういうときは、どうするのが、正しいのだろうか。まあ、ざっと思いつく限り、3パターンくらいのケースがあるように思う。


1.先客が席をはずす。
2.後から来た方が「いや、ちょっと近くまで来ただけなもんで」とか言って帰る。
3.同席する。


 結果、今回はパターン「3」になった。しかも、お互いにこれといった紹介もされずに。それに僕の方としても、「ああ、彼女とはもう7〜8年くらいの付き合いなんですよね。そうですね、バイト先が一緒だったんです。いや、一緒に働いてたわけじゃなくて、店員と客だったんですけど、まあ、ひょんなことから仲良くなりまして、それからちょくちょく一緒に遊んでるんですよ。お互いの姉妹とも仲がいいし。昔はよくお互いの家に行き来してたし、でもまあ、言われてみれば、よく続いてるなぁって。最近はあんまり連絡とってなかったけど、事故ったと聞きましたので、やって来ますた。あ、でも別にそーゆーんじゃないですから」とか何だかんだといきさつなんかを語るのもめんどくさいし、何の説明もなしに、そのまま居座ることにした。


 その場にはニンテンドーDSがあったので、彼は基本的にDSでマリオをやっていた。その間、僕は彼女と話をする。陽気なマリオの音楽やチャリーンというコインを取る音などを聞きながら、いつどこで事故ったのか、いつ頃よくなるとか、そういう話をする。現状としては、身動きができないだけで、あとは元気そうだった。そして、日本人なら誰もが知っているマリオが死んだBGMが流れると、交代で彼女の手にDSが渡ることがあった。そうなると、当然彼女は誰との会話にも加わることができなくなるので、残された僕と彼との間になんか気まずい空気が発生する。そんなこんなで整形外科病棟の507号室の空気が形成されているのだった。やがて、また別の男女のお見舞い客がやってきたので、そのタイミングで僕は帰ることにした。彼は相変わらず、残るようだった。


 帰りながら彼は僕のことをどう思っていたのか考えてみた。多分、気に入らなかっただろう。病気や事故で入院すると、興味本位もあって、いろんな人がたずねてくる。過去の人も現在の人も。あんまり異性の友達のところに単独でお見舞いにいくのはよくないかな。今となっては、妹と一緒に行けばよかったのかもしれないと思っている。