閉じられたパラソル


テロリストのパラソル◆藤原伊織 著『テロリストのパラソル』Amazon.co.jp


 僕は『テロリストのパラソル』という小説で、藤原伊織という作家を知った。多分、誰かに薦められたのだろうけど、それが誰だったか、そしていつの話だったかよく覚えてない。もしかしたら文庫の帯に必ず書かれている「第41回江戸川乱歩賞、第114回直木賞をダブル受賞作品」という文句につられたのかもしれない。まあ、いずれにせよ、よく覚えていない。


 中年のアル中バーテンダーが、新宿で起こった爆弾テロの謎解きをする話なのだが、この物語のバックグラウンドには、僕の好きな全共闘運動時代のエピソードが敷かれているため、ストーリーにものすごい厚みを感じる。とてつもなくおもしろかったので、その後『ダックスフントのワープ』を読んだ。で、この5月に訃報を聞き、『テロリストのパラソル』を再読し、『てのひらの闇』も読んでみた。しかしまあ、『テロリストのパラソル』が間違いなくベストだろうと思う(まあ、3作品しか読んでないんだけどね。冬になったら『雪が降る』も読もうと思っているが)が、最初に読んだときの衝撃の方が大きかった。まあ、名書はときに再読しない方がよいこともある。ちなみに『テロリストのパラソル』はフジテレビで2時間ドラマ化されているらしいが、間違いなくおもしろくなかったように思う。


 『テロリストのパラソル』と『てのひらの闇』の主人公にはどことなく、似たようなにおいがする。やたら酒飲みで、脱力感にあふれているが、仕事はきちっとこなす中年。やくざに臆することもない度胸。かっこいいね。憧れるよ。ちょいワルおやじとか、そーゆーのちゃらちゃらしたのなんかよりずっとかっこいいと思う。ちなみに藤原伊織本人も、大酒飲みで博打好きの問題おやじだったそうな。かっこいい。


 本名、藤原利一さんは、東大を卒業して、電通に30年近く勤めたらしい。1985年に『ダックスフントのワープ』ですばる文学賞を受賞してからも、電通マンと作家という二足のわらじを17年近くも続けてきたとか。よくもまあ、そんなバイタリティがあるもんだなと。僕だったら、直木賞だの江戸川乱歩賞だのもらったなら、絶対サラリーマンなんか辞めるけどね。まあ、そういう発想してるうちはいつまで経ってもかっいいおやじになれないんだろうな。