そうだ、蘘國神社へ行こう


 僕は野球では右投げ右打ちだが、政治に関しては右でも左でもない。でも、まわりの人間にド右がいるので、就業時間が終わったあと、蘘國神社へ行くことになった。僕的にはピクニックにでも行くような気分だった。


「やべ、俺、今日(ニューヨーク・)ヤンキースのTシャツ着てきてるけど、大丈夫かな?」と俺。
「わきゃきゃきゃきゃ! よりによって蘘國行くのにヤンキースかよ」とメリー社長。


 とかいうテンションで一路、東西線に乗って九段下まで。


 20時前ということもあってか、静かだったしまわりも普通に暗かった。屋台とか露店とかあるのかなと思ったが、何もなかった。もしかしたら昼間とかはあったのかもしれないが、とにかく僕らが蘘國についたときには、何もなかった。ただぼんやり暗かっただけだ。それでも参拝に来たのだろうという何人もの人とすれ違ったり、参拝に行くのであろうという何人もの人に追い越されたりしながら僕らは本殿の方へ向かった。


 ぼんやり暑かった。夜だし薄暗いし神社だし、少しは涼しいだろうと勝手に思っていたのだが、ぼんやり暑かった。多分、理由は夏だからだろう。8月15日は夏で、暑い。60年前も60年後も、日本人として8月15日は夏で、暑い、という事実を共有できると思われる。なんとなくそんなことを思った。


 開門しているのは19時までなので、僕らは神門のところまでしか入ることはできなかった。そこで参拝をするわけである。


 蘘國ベテランのメリー社長とまさらっきーは、手を洗うとすごすごと門の前に行き、小銭を放り投げ(あるいはお札をはらりと宙に浮かせ)、カバンを地面に下ろし、何回か礼をして何回か手を叩いて黙祷した。僕はともたっきーさんに「カバンって地面に置いた方がいいんすかね?」と小声で訊ねたが、曖昧に流された。すると、まさらっきーが「二礼・二拍手・一礼だよ」と見下すようなトーンでコツを教えてくれたので、なんとなくそれに従った。でも、傍から見るとナヨナヨしてたんだろうな。メリー社長やまさらっきーはじめ、背筋伸ばして堂々と参拝している姿は、とてもかっこいいものだなと思った。


 まあ時間にしてみれば5分くらいのものだ。僕はそもそも初詣すら行かない人間なので、特に参拝したことによる、ビフォア・アフターに心理的な変化はないように思う。まあ、事実として8月15日に、蘘國神社で手を合わせたという事柄を記しておきたかっただけ。この意味というものは、またいつかわかってくるのかもしれない。


◆靖國神社