中野物語


サウスバウンド◆奥田英朗 著『サウスバウンド 上』amazon.co.jp


 リリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』が大賞となった2006年本屋大賞。そのとき2位にランクインされていたのが、この奥田英朗の『サウスバウンド』。この年ばかりは圧倒的な大差で『東京タワー』が大賞受賞し、話題をかっさらっていったので、『サウスバウンド』まったくその影に隠れてしまった感が否めないが、1年発表がずれていたら、もっと注目されていたかもね。まあ、そういう僕も文庫が出てからおもしろいなと思ったわけなので、偉そうなことはいえないけど。


 この物語は中野を舞台としてスタートする。中野は自分が今生活しているエリアなので、ブロードウェイや早稲田通りとか区役所の裏とかそういうスポットが出てくるだけで不思議と親しみもわく。具体的にその場所をイメージできるし、作者とそのイメージが共有できているという優越感を感じるからだと思う。


 映画でも小説でもたいていの場合は、どこでもない場所で物語が展開していくことが多いと思う。ときとしてそれが東京なのか地方都市なのかも曖昧なこともあるし、「大阪から転校してきました」なんてとてもざっくりした説明だけに留まることもある。いずれにせよそもそもフィクションなんだから、観たり読んだりしている人が好き勝手に想像してくれってことだろうね。


 でもこういった「中野」とか「沖縄」とか場所が特定されていると、心地よいリアリティを感じて物語に溶け込みやすい。まあ、中野や沖縄に興味や知識のない人にとってみれば、あまりありがたくない話かもしれないけどね。


 で、10月6日からはじまる映画は、中野ではなく浅草になっているところがいささか気に食わない。せっかく中野の街を映画で観ることができると思ったのに。でもまあ世間一般的にみて中野よりも浅草の方がなにかとイメージしやすいだろうからしょうがないのかもね。


◆映画「サウスバウンド」公式サイト


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