「男は振られる生きものである」

■渡辺流恋愛レッスン開講GOETHE(September 2007)


(略)
「本来、すべての人間関係はアナログな仕組みの上に成り立っている。だからこそ、ただ頭がいいとか、理屈だけで処理できないものが無数にある。なかでも、その傾向がとくに顕著なのが男女関係、つまり恋愛だよね。ところが、恋愛はそのアナログさゆえに、これまで“学ぶに値しない、つまらぬもの”としてないがしろにされてきた。そんな愛の世界をもっと合理的に、一般論として捉えることはできないだろうか。そう思ったことが、今回のエッセイを書こうと思った発端だね」
(略)


 女性は、毎月卵子を排出した子宮に柔らかい血のベッドを作って受精を待ち、それが叶わなかければ諦めて血を流すというサイクルを繰り返す。やみくもに精子を作っては放出したがる男とは、根本的に体のリズムが異なるわけだ。


「そういう肉体のバイオリズムは、当然情にも影響を及ぼすわけで、女性は体の状態の変化によって気持ちも大きく変わることがある。だからこそ、へこたれずに何度も誘い続ける馬鹿な男が、とびきりのいい女を手に入れる、なんてことが起こりえるわけで」
(略)


「学問というからには、体系付けられた知識がロジカルに証明できるということが前提。数学でいえば1+1=2であるとか、化学でいえば水素と酸素が結合すると水ができるとか、例外なくすべての現象についてそれらの理論が適応されることが望ましいわけだ。つまり、例外の数が多くなればなるほど、学問体系としては成立しづらくなっていく。個人差が激しい恋愛なんて、ほぼすべてのケースが例外だからね」
(後略)


 雑誌『GOETHE』9月号スタートで、渡辺淳一が「恋愛格差」というエッセイを連載している。上記はその連載をはじめるにあたってのインタビュー記事の一部なんだが、このエッセイがとてもおもしろい。


 渡辺淳一といえば『失楽園』や『愛の流刑地』など、まあドロドロした男女関係ものが有名だが、最近では『鈍感力』もヒットさせた作家。高校のときの国語の先生が、この人を嫌っていた記憶があるので、なんとなく僕も好きじゃなかったのだが、このエッセイを読んでみて見方が変わったかな。「男は振られる生きものである」とか、「二兎しか追わぬものは一兎をも得ず」とか、切り口が絶妙だし、文章も説得力がある。まあ、男性誌だし男目線で書かれているんだけどね。


 そもそも受精というもの自体、何億という数の精子の中から、受精できる勝者はたったの1つだけしかないという仕組み。つまり精子なんてものは、女性の体内に入ったところで卵子まで辿り着けずに死んでいく運命ということである。男はそもそも負けて散っていくのが前提の生きものなんだなって。まあ、そうだよね。卵子はじっと待ってればいいんだよね、かぐや姫みたく。でも、気に入ったのがやってこなければ、月に帰ったり、どろどろになってナプキンの上に吐き出されたりすんだろうけど。


 今月の11月号は書店で読んだのだが、「挿入する側と、される側の心理」みたいなテーマだった。うむ、実に深い。立ち読みでいいから読むべきだよ。あ、別にダブルミーニングじゃないよ。そのうち文庫とかにまとめられるといいな。


◆幻冬舎 | Goethe