東京という街、徒歩で感じるか、バスで感じるか

◆真山仁 著『ハゲタカ(上) 』amazon.co.jp


 東京という街は、不思議な街だ。ビジネスを迅速に進めるには、地下鉄を利用するのが一番良いのだが、そうするとこの街は、灰色のコンクリート要塞になってしまう。あるいは車で移動しようとすると、至る所に人と車が溢れ、まさに都会を象徴した「混沌」の機能不全を感じさせる。


 それが、ひとたび徒歩で街を動き始めると、途端にこの街は別の魅力を見せ始めるのだ。ビル街に点在する緑、そして古い民家が散在して、人間という生き物が必死で呼吸しようと、街をせめぎ合っている――そんな生命力に溢れている。特に人がまばらな早朝の東京は、彼が生まれ育った大阪以上に、日本らしい空気を感じさせてくれた。


 少し前までよくバスで移動することが多く、バスに乗ったときの東京の街の印象もまた少し違うもんだなと感じていた。真昼間であれば街には老人くらいしかない。夕暮れどきは買い物帰りの主婦や、とにかく走っている小学生が目立つ。雨が降っていれば人は傘をさして歩くし、晴れていれば人は気持ちよさそうに歩く。


 そんな街の様子、人が生活している息づかいを、バスの中という彼らとは同じ風景の中だけど、少し違ったレイヤー上から客観的にダイジェストで見ている、そんな感覚に浸れた。手を伸ばせば彼らに触れることができるような位置にいるのだけれども、バスに乗っているので、一瞬のうちに彼らは僕の視界から消えていく。


 バスに乗って東京という大都会のとある街中を移動するっていうのも、なかなかいいものなんだよ。