ホノルルの街を走る


 ホノルルで見かけたスウォッチのショップでランナーズ・ウォッチを購入した。とにかく何でもいいから、ランニング用の時計が前々から欲しかったのだ。値段は155ドル。「155」と数字だけ見ると安いような気もするが、円に換算すると、そこそこの値段になる。まあその辺は海外旅行に付きものの罠だ。


 で、時計を購入するや否や、さっそくホノルルの街を走ってみることにした。普段着のままでシューズも使い古したスニーカー、しかもどこに行けばどんなコースがあるのかも知らないが、もう走りたくてしょうがない。右腕の買ったばかりのランナーズ・ウォッチが僕をそうさせるのだ。僕は、適当ににぎやかなストリートを外れ、見えてきた大き目の川沿を走ってみることにした。


 川の向こう岸にはグランドが見え、そこでサッカーをしている連中がいた。僕は橋を渡り向こう岸に移り、そのサッカーグラウンドの隣を走る。ハワイで少なくとも22人もの人間がサッカーに興味を持っていることに、いささか感心しながら。


 そして、何人かのランナーとすれ違ったり、追い越したり、追い越されたりしながら、この先どこに通じるかもわからないような道を走る。さすがアメリカ、すれ違うランナーは一様に「はーい」といったスマイルを投げかけてくる、なんてことはなく、誰もみんな、ただ黙々と走っていた。世界中どこに行ってもランナーというものは寡黙でそして孤独なものなのだ。見ず知らずの人間に笑顔で手を振ったりウインクしたりする余裕なんてない。ただただ自分に課せられた距離というノルマと、時間というプレッシャーと戦う。そしてそんな自分に少し酔いながら走っているものなのだ。


 時間は夕方の19時前だったような気がする。まだ太陽はしぶとく空にしがみついていて、その下で活動する人間は、夜でもない昼でもない時間を謳歌しているようだった。まるで女神からの問いかけにに対し、金の斧とも銀の斧とも答えることができる、そんな贅沢な選択権を与えられているかのように。


 そして川沿いを離れゴルフコースの隣を走ることになる。川をひとつの目印に走っていたので、この先どこに行ってしまうのかいささか不安にもなったが、やがてまた川沿いのコースに戻ってくる。そのとき気づいたのだが、その川からは海のにおいがした。事実、海はすぐそこにある。海水が流れ込んでいるのだろう。しかし、海とは打って変わってたいしてきれいな川ではなかったが、そこでボートの練習をしている人間がいた。彼らは、笑顔でサーフボードを抱えているような軟派な種族ではなく、ただひたすらに難しい顔をしてオールを掻き回すストイックな部類の人間だった。しかしボートもたいそうと孤独なスポーツだなと思う。ランナーなんて所詮活動範囲は陸の上だが、ボート競技の人間は水の上にいるわけだ。常に舞台はアウェーなわけだ。僕はそんな彼らを横目に、見覚えのある八角形のホテルに戻ってきた。


 ちなみにこの日走ったコースはこちら。
◆ホノルルで走ったコース<ジョギングするなら「ジョグノート」 楽しく走れる機能が満載


 約5キロほど走ったことになる。とはいえ、1/3くらいは歩いていたような気もするが、とにかく5キロほど動いたということだ。で、せっかく買った時計だが、使い方がわからなかったため、タイムは計測できなかった。


 しかし結局ホノルル滞在期間に、走ったのはこの日1日だけだった。時間がなかったこともあるし、左足に水ぶくれができてしまったせいでもある。きのうの日記に、もうホノルルには当分行きたくないというようなことを書いたが、このコースをはもう1度というか、何度も走ってみたい気はする。ホノルルの夕方は、なかなか走り甲斐がある空気に満ちているのだ。


◆Swatch Group Japan