野球のデータ、どう読み解くか?



マネー・ボールマイケル・ルイス/中山 宥 (翻訳)


 2004年の春に日本でも発行され、なんだかんだと話題になったが、今やっと目を通してみた。メジャー・リーグのアスレチックスというチームのGMビリー・ビーンがその独特な価値観の元、いかにして選手を安く獲得し、いかにして強豪チームをつくり上げたかという話。日本でもアメリカでも選手の高額年俸や、チームによる資金力格差が話題になっているのだが、そういう観点からだと「負け組」に振り分けられるはずのアスレチックスが常勝球団になっている。はて、いかに。この本にはそのノウハウが書かれているわけだ。


 ビリー・ビーン的価値観の中で一番わかりやすいものは、打者の価値を表すものは打率でも打点でもなく、出塁率、そして長打率であるという考え方だろう。確かにヒットが出れば球場は盛り上がるが、打率が高い選手はそれだけの価値が付くので、年俸が高くもなる。しかし四球も含めた出塁率の場合は、あまり年俸には影響しないのにヒット同様の価値がある。まあ僕がいちいち説明するのもバカらしいので続きはブックでよろしくということにするが、こういった、いかにコストをかけずに勝利という目的に達成するかというオレ流の解釈が書かれている本だ。だから、野球の本としては当然だが、ビジネス書としての評価も高い。


 ビーリービーンの言うところの出塁率長打率というのは、OPS(On-base plus slugging)という指標で表され、少し前から打者を評価する際のひとつの基準として注目されている。日本の打撃成績は基本的に打率順で表示されているが、セ・リーグの打撃成績表をOPS順に直してしてみるとこうなる。

選手 OPS 打率(リーグ順位)
村田修一(横浜) 1.01 .313(10)
青木宣親(ヤクルト) 1.00 .358(2)
金本知憲(阪神) 0.95 .321(8)
ラミレス(巨人) 0.95 .308(12)
内川聖一(横浜) 0.94 .375(1)
栗原健太(広島) 0.89 .334(3)
小笠原道大(巨人) 0.89 .292(16)
ウッズ(中日) 0.89 .273(21)
和田一浩(中日) 0.86 .323(5)
新井貴浩(阪神) 0.85 .311(11)
吉村裕基(横浜) 0.84 .265(24)
福地寿樹(ヤクルト) 0.82 .323(6)
中村紀洋(中日) 0.81 .276(20)
畠山和洋(ヤクルト) 0.8 .293(15)
阿部慎之助(巨人) 0.8 .269(23)
鳥谷敬(阪神) 0.79 .290(17)
関本賢太郎(阪神) 0.78 .302(13)
アレックス(広島) 0.78 .301(14)
赤星憲広(阪神) 0.76 .316(9)
宮本慎也(ヤクルト) 0.73 .322(7)
東出輝裕(広島) 0.72 .328(4)
井端弘和(中日) 0.72 .284(19)
仁志敏久(横浜) 0.71 .270(22)
田中浩康(ヤクルト) 0.69 .285(18)
石原慶幸(広島) 0.67 .258(25)
坂本勇人(巨人) 0.63 .255(26)
金城龍彦(横浜) 0.63 .238(28)
荒木雅博(中日) 0.59 .247(27)

(8月30日試合終了時)


 意外にも村田が頑張っている。また、ラミレス、小笠原は打率.300前後であっても、やはりその存在感があると言える。逆にこの見方だと、赤星、宮元、井端、荒木みたいな選手は、その「いやらしさ」みたいな価値が見えなくなってしまうのかもね。


 野球というスポーツのおもしろさのひとつに、「膨大なデータ+自分の知識」で、各選手に自分の好き勝手な評価をくだせる点がある。例えば、この選手はホームランが多いがチャンスでは打たないとか、あの選手は打率こそ低いが右打ちができて地味な働きをするとか、このピッチャーはいつも左バッターに打たれているとか……。しかしまあ、いろんな観点から分析はできるのだが、しょせんは娯楽のツール、飲み屋のネタでしかなく、球団の経営サイドの人間にとっては、客観的なデータを正しく解釈する力が必要。それこそ、さまざまなデータを正しく読み解くことによる勝利の方程式を見出さなければいけないわけだ。軽視しているものに本当の価値があるかもしれない、逆に重要視しているのだがそんなに価値のないこともあるだろうし、コストをかけず代替できることもあるだろう。そういったことを考えさせてくれる。


 最後に予断。僕がバッターの価値を示すのに一番公平なデータというのは「得点」だと思っている。ホームベースを踏んだ数だ。とにかく出塁し、足を使ってベースを3つ蹴ってホームに帰ってくる。足が遅ければホームランを打って得点するもいいだろう。もちろん前後のバッターや、そのときのアウトカウントなど時々の運によっても影響してしまう数値だが、得点を取るスポーツということでは、少なくとも打率より価値のある値だと思うんだけどね。同じように得点順に、セ・リーグの打撃成績表を直してしてみるとこうなる。さて、どう読み解くか。

選手 得点 OPS 打率(リーグ順位)
赤星憲広(阪神) 74 0.76 .316(9)
小笠原道大(巨人) 70 0.89 .292(16)
金本知憲(阪神) 67 0.95 .321(8)
ラミレス(巨人) 63 0.95 .308(12)
ウッズ(中日) 62 0.89 .273(21)
東出輝裕(広島) 60 0.72 .328(-)
村田修一(横浜) 59 1.01 .313(10)
青木宣親(ヤクルト) 59 1.00 .358(2)
内川聖一(横浜) 59 0.94 .375(1)
鳥谷敬(阪神) 58 0.79 .290(17)
仁志敏久(横浜) 57 0.71 .270(22)
アレックス(広島) 56 0.78 .301(14)
福地寿樹(ヤクルト) 53 0.82 .323(6)
荒木雅博(中日) 53 0.59 .247(27)
栗原健太(広島) 52 0.89 .334(3)
新井貴浩(阪神) 50 0.85 .311(11)
井端弘和(中日) 50 0.72 .284(19)
吉村裕基(横浜) 49 0.84 .265(24)
中村紀洋(中日) 48 0.81 .276(20)
赤松真人(広島) 48 0.72 .265(-)
坂本勇人(巨人) 47 0.63 .255(26)
和田一浩(中日) 44 0.86 .323(5)
田中浩康(ヤクルト) 42 0.69 .285(18)
阿部慎之助(巨人) 41 0.80 .269(23)
宮本慎也(ヤクルト) 41 0.73 .322(7)
関本賢太郎(阪神) 40 0.78 .302(13)
金城龍彦(横浜) 40 0.63 .238(28)
飯原誉士(ヤクルト) 39 0.81 .298(-)
平野恵一(阪神) 38 0.69 .280(-)
天谷宗一郎(広島) 38 0.64 .261(-)

(8月30日試合終了時)


※参考
◆セ・リーグ個人打者成績 打率Yahoo!プロ野球