Hey Jude , don't make it bad.



アドルフに告ぐ 1―手塚治虫の収穫』手塚 治虫


 手塚治虫生誕80周年記念・ビッグコミック創刊40周年記念ということで、2008年6月頃から続々発行された手塚治虫の収穫」シリーズ。その中でこのアドルフに告ぐ』全3巻を一気に読み干した。なんの比喩でもない、本当に一気に読み干した。アドルフ・ヒトラーを、ナチスユダヤ人を、戦争を描いた歴史漫画。実は今の今まで手塚治虫をまともに読んだことはなかったのだが、これは、すばらしいの、一言に、つきる。


 僕は元々ナチスというものに興味がある。というか、もう少し正確に言うと、ユダヤ人というものにとても関心がある。蔑められ、迫害され、そして殺され続けてきた、彼らのその不幸な「血」というものに。何故彼らはこんな数奇な運命を背負い、そして今もなお、何を守ろうとして、何と戦っているのか。僕にはさっぱり理解できない「血」を持った人々だからだ。そしてこの漫画ではナチスユダヤ人だけでなく、日本での戦争と、そしてこれらの戦争で死んでいく者、生きのびていく者が、幾重にも折り重なるように登場する。とてもせつないし、心が痛む場面が多々見られる。でも、まったく他人事でもなく、漫画とも思えない説得力をはらんでいる。


 全3巻読み終えて、まあいろいろあるのだが、ひとつだけ挙げるとすれば、人を愛するということは誰かを憎むことであり、自国を愛するということは他国を憎むことなのだろうなと思ったこと。でも、生きていくうえでは、愛したり憎んだりすることは、大なり小なり決して避けられない。だから、きっとこの先も戦争はなくならないのだろうと思う。ジョン・レノンもがっかりするだろうが、平和をうたったり、イメージすることはできても、現実的に、そこに「愛」がある限り、人間からは「憎しみ」もなくならないのだと思ってしまった。残念ながら。


 でも、僕はこの物語に登場するすべての不幸な人々を当分忘れないだろう。だから、それが自分のなかでどう消化されていくかは、まだ、わからない。もしかしたら、もっとポジティブな意見を持てるようになるかもしれないけどね。


【以下ネタバレ注意】


 つまり、今のところ僕の感想は、主人公の最後の望みとは真逆の方向に行ってしまったのかもしれまい。というのも、僕はこのドイツと日本を結ぶ長い長い物語のおしまいに、イスラエルが登場したことに、強く強く心をえぐられたのだ。ユダヤとは、民族とは、殺し合うことの意味とは。僕らは歴史から何を学ぶことができるのだろうか? ――何もできないのだろう、と。