床屋のおっさん


 きのうの話の続きだよ。まあ続きというか正確には途中の話なんだけどね。実際に髪を切ってくれたのはおっさんだって話はしたよね。このおっさんがなかなか良かったってことを言っておこうと思うわけだよ。


 僕はそもそもあんまり髪を切るのが好きじゃないから、伸びるとこまで伸ばしきって、もうこれはどうしようもないなってなったら、ばっさり短めに髪を切ることが多いんだよね。で、そのばっさり切るときはたいてい「松坂みたいに」って注文するんだよ。レッドソックスの松坂ってことね。でもね、よくよく思い返してみると、たいていどの美容師もそんなに髪を短くしてくれないんだよね。一旦切り終えたあとに、アコーディオンみたいに鏡を広げて、「こんな感じで」とか言うんだけど、たいてい「もっと切っていいですよ」と言わざるを得ないわけさ。それなのに、ちょっとしか切らないんだよね。でまた大げさな鏡が登場するんだけど、ほとんどさっきとの違いがわからないくらいなんだよ。でも、もういいやめんどくせってことで「ああ、こんな感じでちょうどいいです」って言って次の工程に進んでもらうわけさ。でもね、このおっさんは、もう潔くざっくりハサミを入れるわけさな。もう一発でいいナイスな感じに仕上げてくれたんだ。


 で思ったわけさ。つまりね、僕がこれまで髪を切ってもらった人というのは女の人ばかりだったんだよね。だから多分髪をばっさり切ることにどこか大いに抵抗があったんだろうね。さぐりさぐりハサミを入れてたと思うんだ。あとはね、これは僕が悪いんだけど、そもそも松坂のことを知っているのかどうか疑問なんだよね。「松坂? アナウンサーと結婚したよね」って情報がメインだと思うんだよね。それにたとえ松坂を知っていたとしても、テレビや雑誌に出てる松坂は8割方帽子をかぶっているんだよね。有名人とはいえ、そんな帽子をかぶることを義務付けられている人間の髪型にしてくれと言っていた僕にも責任の一旦はあると思うんだ。それは進んで認めるよ。


 とにかくにね、髪を短く切るにはおっさんが適しているってことがわかったね。めんどくさくないんだ。何の躊躇もなくばっさりいってくれるからね。