ストレイシープ



『悩む力』姜尚中


 少し前にぼさっとNHKを見てたら、この姜尚中(カン・サンジュン)っておっさんが出てて、とても二ヒルな表情で、ぼそぼそ淡々と漱石を語っていたんだよね。で、ことろどころで版画絵のような無機質なタッチの再現ビデオが流れるわけさ。『こころ』や『それから』のワン・シーンの再現ビデオってことだよ。この番組がなかなか見応えあったんだよね。ふむ、漱石か、漱石も久しぶりに読んでみたいなってそんな気にさせてくれたね。で、それからしばらくして、あの姜尚中っておっさんが出した本がなかなか話題ということで読んでみたわけさ。


 んで、この本の中でも漱石の作品と漱石の生きた時代を軸に「悩む」という人間特有の活動をクールに描写してるわけだよ。なかなかライトに説得力のある語りなんで、おもしろかったと思うよ。流行やブームが20年周期なんてよく聞くわけだが、漱石の生きた時代から100年経った今、当時と同じような悩みを我々は抱えている。そんな切り口なわけだから、けっこうそそられるよね。人間の悩みは100年周期、みたいな。


 僕は言うほど漱石を読み込んだわけじゃないけど、漱石を語る上でのキーワードのひとつとして「神経衰弱」が挙げられることくらいは知ってるかな。まあ今で言う「鬱」だよね。そして『三四郎』で登場する「ストレイシープ」という謎めいたセリフも好きだね。まあ正確なところはよく知らないけど、「迷える子羊」っていうような意味だよね。まあ、この曖昧さがかっこいいわけだよ。ストレイシープってね。僕らはまさにストレイシープ。100年に1度の混乱の時代をおおいに楽しもうじゃないか。