なぜ監督なのか?



『Sports Graphic Number 2009年 10/29号』


 僕は小さい頃、プロ野球を観てて、どうして優勝したらまず真っ先に監督を胴上げするんだろうか、と疑問に思っていたね。だってさ、打ったり投げたり活躍した選手のおかげで試合に勝って優勝したわけだから、たくさんホームランを打ったり、たくさん勝ち星をあげた選手をまず胴上げすべきなんじゃないかって思ってたわけだよ。でもさ、そんな僕でも大人になっていくにしたがって、「いかに人間を動かすのが難しいか」ってのを痛感するわけだよね。つまりさ、どんなにいい選手がチームにいようとも、その選手のモチベーションが上がらなければその能力は発揮できないし、チームそのものの士気も一向に上がらないわけだよね。で、それをコントロールしているのが監督ってポジションなんだよね。そりゃ真っ先に胴上げするさな。代打やピッチャー交代だけが監督の仕事だと思ってたけど、大間違いだったわけだよ。まあ、こんなこといちいち説明するまでもないだろうけどね。


 でさ、今号のNumberには、様々なスポーツ界の監督の話が載ってるんだけど、西武ライオンズの黄金期を築いた森祇晶(「まさあき」と読むらしいね。漢字をみればピンとくるのだが、読み方はなかなか覚えられなかったね。これを機にしっかり覚えることにするよ)氏のインタビューの中に「自分の体験だけでモノを教えるのは、指導者ではないと私は考えていますから」とあって、「人を納得させることができる」のかどうかが大事、みたいな言葉があったんだよね。さすが森さんだなと思ったよ。まあ、読む人それぞれで感銘を受ける部分は違うかもしれないけど、僕的にはこの森さんのセリフにノック・アウトさせられちまったってことだよ。うん、だからバルサリーガ・エスパニョーラ)、グアルディオラ監督のモチベーション術であったり、スティーラーズNFL)、トムリン監督の恭順術であったり、マリナーズMLB)、ドン・ワカマツ監督のヒアリング術であったりね、こういうエピソードも知っておいて損はないと思うよ。君が無類のスポーツ好きであろうがなかろうがね。だってさ、とあるチームの中で指揮を執らなきゃいけないことって誰しもあるだろうからね、生きていくうえでね。まじで。


◆Number_091029文藝春秋