サイン


 先日、部活の「懇親会」とかいうのがあって呼ばれたかたら行ってきたんだよ。そんときの反省点でもまとめておくよ。


 その「懇親会」っていうのは、この春入部した1年生の「歓迎会」と、6月で引退した3年生の「おつかれさまです会」とを兼ね合わせた食事会なんだよね。ってゆーか、そういう名目で親が集まってご飯食べようよみたいな集まりだよ。保護者って生き物は、子どもを理由に、自分達の気晴らしの場を設けるのが上手だからね。


 まあとにかくさ、そういう集まりに出かけたんだけど、保護者と生徒それぞれ15人くらいいたわけさ。で、スペース的に30人も入る部屋がないってことで、保護者組と生徒組がそれぞれ隣り合った部屋に別れて、食事をすることになったんだよ。僕はといえば、保護者組の部屋でお父さんグループのテーブルにいたんだけどね。


 で、まあその辺りから、生徒の部屋にも行って話したり、はしゃいでおくべきなんだろうなって、なんとなく気づいてはいたんだけど、どうも席を立って他所の部屋に行きづらかったんだよね。また行ったら行ったで何を話せばいいかわかんないから躊躇してたんだ。ホントなら、3年生に「最近どうよ」的な話をすべきなんだろうけど、結局3年生とも3〜4回くらいしか練習しなかった上に、しばらく会うこともなかったから、何を話せばいいかピンとこなかったんだよ。そういうのってあるだろ、しばらく会ってないと何喋っていいかわかんないって。で、結局ずっと生徒の方には顔を出さずに、お父さん連中と話をしてたってわけさ。



 でね、最後の方になってくると、当然生徒たちは飽きてきてバタバタしだすんだよ。バタバタね。で、ある3年生が、僕らのいるテーブルの親父のところに来て、「何か食うもんはないか」と言うんだよ。で、適当に料理が余ってたから僕も「おう、このへんのモン食えよ」って言ったんだけど、彼は特に食べ物には手をつけず、なんとなくどっか行ってしまったんだ。で、またしばらくしたら同じように僕らのテーブルのところに来て、「何か食うもんはないか」と言うんだよ。だから、僕も二度、ずっと余ってる料理があったから「おう、このへんのモン食えよ」とか言ったんだけど、なんだよさっきも言ったじゃん、とか思ってたんだよね。でもさ、それはよくよく考えてみると、飯を食いに来たんじゃないんだろうなって気づいたんだ。帰ったあとだけどね。というのも、その懇親会の前に保護者と少し話をしてたんだけど、「ウチの子は、部を引退してから、さみしいのか、家に帰ってきてもずっとボールを触ってる」みたいなことを、親バカな目線もあるだろうけど、しみじみと語ってたんだよね。つまりさ、彼は僕に「ヒマだったら体育館来いよ」って、そういうことを言って欲しかったんだよ。「もう引退したんだから、今度はもっと気楽にやろうぜ」みたいに声かけて欲しかったんだよね、きっと。飯がどうこうなんてどうでもよかったんだよ。


 これが学校の先生だったり、何かの指導者だったら、こういう気配りなんて朝飯前なんだろうけど、僕はそういうのが、すこぶる苦手なんだよ。他人とのコミュニケーションってやつがね。思い返せば、確かに何人かの3年生からサインを送られてた気がするんだよ。「何か話しかけて欲しい」ってね。でも僕はそれに一切応えることも、気づいてやることすらできなかったんだよ。


 一人前になるのってむずかしいよね。