継続はなんとやら


 仕事で新人の子を見てて気づくことがあるんだ。それは、「そんなこと言われなくてもわかるだろ」ってことが多々あることだね。仕事の効率なんて大逸れたことなんかじゃなくて、挨拶とか礼儀とか態度とかそういう部分でね。多分、アラサーのみんなならわかってもらえると思うんだ。


 でもさ、じゃあテメェはどうだったんだよ、って問い詰められたら、もちろん、そんなこと言われてもわかんなかったと思うんだ。そんなことってのは、挨拶とか礼儀とか態度とかのことだよ。自分も若い頃は、同じだったか、たいして変わんない程度だったと思うよ、こればっかりは。じゃあ、いつ頃から気づきはじめ、注意しはじめたかというと、それは覚えてないんだよね。でもさ、これは毎日毎日、繰り返し誰かから指摘されたり、自分で注意しているうちに、いつの間にか身についたんだろうね。だから、明確に「いつ」なんて時期はないと思うんだ。たとえタイムマシーンがあって、それで検証しても、その時期を特定することはむずかしいんじゃないかな。


 同じようにさ、中1の子の筋トレの様子を見てても、むしろ感心するくらいさっぱりできないんだよね。腕立てにしても3回くらいやると、すぐくたばっちまうんだ。でもさ、腕立てなんて、いつの間にかそれなりにできるようになってるよね。普通に運動部に所属してればね。それは、中学生にとってみれば、部活なんて中学校生活における圧倒的なウエイトを占めてるから、毎日毎日の何かしらのトレーニングをしてるうちにできるようになるんだろうね。



 こういう「生きていく上での当たり前の能力」ってのは、毎日毎日、薄っぺらくてもいいから、とにかく続けることにおいて、いつの間にか身に付いてるんだなと思ったよ。つまりさ、続けることが大事なんだなってことだよ。でさ、こういうこと誰かも言ってたな、と思ったんだけど、クワタさんだよね。いちいちさすがだよ。クワタさんは、シャドウ・ピッチングを1日10分、50回、これを毎日毎日、何があっても毎日続けたっていうんだ。あのPLの大エースの練習が、誤解を恐れず言うなら「この程度」なんだよ。ただし、ここでのキーワードは、「何があっても毎日続けた」って部分だけどね。こういう、地味だけど、堅実な努力ってのを君たちも見習った方がいいよ。クワタさんからね。


 僕らは大人になるにつれて、多種多様の選択肢や選択権が与えられるんだ。草野球をやろうと思えばそんなに苦労しなくてもチームを見つけることができるし、健康のためにジョギングしようと思ってもシューズとウエアなんて簡単に手に入る。写真を撮りたい、将棋なんかもいいな、ゴルフをはじめよう、釣りにも行ってみようか、料理教室に通おう……、必要な環境や道具なんてすぐ手に入るだろ。君がたくさんの趣味を持って、そこからたくさんの楽しみを享受するなんて、簡単なんだよ。実にね。でもさ、それらが、ホントに今でも続いているのか、そして上達してるのかって訊かられたら、君は何て答えられるかな。


 だからさ、簡単なんだよ。ホンキではじめたことは、薄っぺらくてもいいからずっと続けてみるってことだね。それだけだよ。薄っぺらくていいんだ。必死になりすぎると疲れちゃうし、燃え尽きなんとか群とかになっちゃうからね。そして、ずっとってのは、そうだね、少なくとも3年だろうね。イチローが言ってたみたいに。で、10年以上は継続しないと、それこそ、「囓っただけ」っていう、あっという間に風化しちまう経験として終わってしまうんだろうね。つまりさ、とにかく続けることだよ、覚えておきな。


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