部活動における移動がもたらすドラマ


 3年生を送る会の2次会として、3年生の保護者と僕とで、別の居酒屋に移ったんだ。で、そこには、前任の顧問の先生も来られて、なかなか濃い話ができたんだよね。


 前任の先生ってのは、僕より1つ年上で、もちろん中学からバレーをやってたらしいんだけど、あいにく当時その中学とはあまり交流がなかったので、あまりピンとこないんだよね。でもとにかく、先生になられて、野田中に赴任して、見事強豪校の伝統を引き継いだってわけさ。で、僕が、先生は野田中に何年いたんですかと聞くと、「6年です」と。長いですね、と僕が答えると、「いやぁ、もう1年だけやりたかった……」と、搾り出すように言ったのがとても印象に残っているんだよ。社交辞令なんかじゃなく、本気でこの3年生と最後まで戦いたかったんだなというのが伝わってきたよ。だから、中途半端ではあるが後を引き継ぐような形になってる僕に対して、「大島さんには感謝してます」と何度か言ってもらったけど、決していい成績を残してあげられなかったので、逆に心苦しかったね。


 で、最後に「ぜひ、近いうちに練習試合をやりましょう」とまで言ってもらえたのには、とても嬉しかったよ。弱小校の何がしんどいかって言ったら、とにかく練習試合を組むのに苦労することなんだよ。でもって試合経験を積まないから一段と強いチームとの差ができるって悪循環なんだよね。でもまあこれも酒の席の話しだし、3年生の保護者ももう部活には関わらなくなるし、そもそも僕は教師でもなんでもない一般人なわけだから、どれほどの現実味があるか未知数なんだけどね。でも、僕みたいな付け焼刃の指導者に対して、色々と気にかけてくれる言葉をもらえたことには、感謝してもしきれないね。



 でね、昔から気づいてはいるんだけど、学生スポーツ、とりわけ中学の部活動で、いつ何刻指導者の移動があるかわかんない状況下で、1年1年勝負するってのは、過酷というか、残酷だなと思うよ。精魂込めてチームづくりをしても、上司から「あ、じゃキミ、4月から2つ隣の中学ね」とか言われたら、やりきれないよね。西も東も大迷惑ってやつだよ。で、自分がいなくなった後にチームが急に強くなるのもおもしろくないだろうし、かといって、急に弱く、そしてだらしなくなるってのもいたたまれないだろうしね。


 もちろん、これは先生だけじゃなく生徒も保護者も同じで、だから3年生の保護者からは「あぁ、ついに終わってしまったか……」「不完全燃焼だわ……」という声というかため息が何度も聞かれたね。そりゃ2年生までこっぴどく鍛えあげられたのに、その集大成たる最後の最後に先生がいなくなってしまたわけだからね。でも、これが中学校の部活のリアルなんだろうね。


 僕が部活を見るようになって、最初に感じたのが、「なんか部活って閉じられた組織」とか「保護者が口出しし過ぎる」って一面を強く感じたけど、少し間違いだったように思うね、今となっては。部活では、寡黙な努力、孤独な競争、つらい試練を課すことでのみ成長する一面があり、それを見守る保護者の、我が子はもちろんチームに対する愛情の度合いってのが、一般人の想像の域を超えていて、距離感が掴みづらいってだけなんだよ。だから、部外者にとっては「おいおい」と感じることでも、当事者になってみると、そこまで入れ込んでしまう魅力ある活動なんだなと思ったね。


 そしてまた、人事異動の季節なわけだよ。金沢市の場合は3月30日に中学の離任式があるから、その日の発表によっては、僕の4月からの立ち位置も変わる可能性があるってわけさ。