あなたは自分の直感に自信がありますか?

羽生善治 著『決断力』


 私は、人間の持っている優れた資質の一つは、直感力だと思っている。
 というのも、これまで公式戦で千局以上の将棋を指してきて、一局の中で、直感によってパッと一目見て「これが一番いいだろう」と閃いた手のほぼ七割は、正しい選択をしている。
(略)
 直感力は、それまでにいろいろ経験し、培ってきたことが脳の無意識の領域に詰まっており、それが浮かび上がってくるものだ。まったく偶然に、何もないところからパッと思い浮かぶものではない。たくさんの対局をし、「いい結果だった」「悪い結果だった」などの経験の積み重ねの中で、「こういうケースの場合はこう対応したほうがいい」という無意識の流れに沿って浮かび上がってくるものだと思っている。


 この本の帯のにも書かれているが、「直感の七割は正しい!」のだそうだ。うむ、なんとなくわかる気もする。


 とあるイレギュラーな状況にでくわしたとき、「こう対応すればいいのかな」という直感が働いても、そのアイデアを発言したり、実際に行動にうつす段階で踏みとどまることもある。というか躊躇することがほとんどだと言っていいかもしれない。理由は、自信がない、この1点につきるだろう。では、なぜ自信がないかというと、自分の直感を裏付けるだけの経験がないからだ。僕がよく言う言い訳のひとつに「たしかに変だとは思ったんですけどねぇ……」みたいなものがある。せっかく直感が上手く機能していても、それを実行せずに中途半端なアクションをとった結果のことだ。もちろん、こういうケースでは、ほとんど何も生み出すことはない。


 昔、部活の説教で、「何回も何回も繰り返し練習すれば身体が勝手に動いてくれる。こういう状況ではここのカバーが必要だとか、こうなったときは、たいていセーフティーにいった方がいいとか。とにかく練習することで、頭で考える前に身体が動いてくれる。直感とは本来そういうものだ」というようなことを言われた。その時代は、当時巨人の長嶋監督の「カン・ピュータ」なる言葉が流行っており、誰もが「カン」という言葉を安易に使っていた時分のことなので、よく覚えている。


 最終的にはどれだけの場数を踏んできたか、という経験がものをいうのだ。根拠のない直感だって七割は正しい。しかし、凡人はそのひらめいた直感の七割を行動にうつすことができない。そんな感じだろうか。