同じ歳の人間


 第一声で「肥えたな」と、彼は僕に向かって言った。彼の方は、昔――といっても何年前か知らないが、ほとんど変わってない印象だった。ただ、最後に会ったときは坊主頭だったが、今は腰くらいまでの長い髪になっていた。まあ、それだけ髪が伸びる期間は会っていなかったということだ。僕らは吉祥寺のお好み焼き屋さんに入った。


 昔、吉祥寺の音楽スタジオで彼と僕は一緒にバイトをしていた。彼は僕よりもずっと前から働いており貫禄もあったので、いくつか年上だと思っていたが、意外にも同じ歳だった。もともとは、別々の店舗に所属していたのだが、僕がそのバイト先を辞める最後の半年くらいは、同じ店舗になり、一緒にくだらない話をよくするようになった。音楽の話をすることもあったし、しないこともあった。彼が手当たり次第の話題を提供し、僕が生ぬるいトーンの突っ込みを入れることで僕らの会話は成り立っていた。


 彼はそもそもメタルとかヘヴィな音楽が好きなので、見た目も武道派である。出会ったときの髪は長髪で紫色だったし、人を殺してそうな目つきをし、肩を切って歩いていた。しかし、上下関係がちきっとした音楽ジャンルの人間だったので、先輩には礼儀正しく、また先輩にかわいがられるタイプの人間だった。一方で、後輩には厳しく(おっかなく)、接していたので、僕にとっては「あまり関りたくない」タイプの人間だった。しかし、一緒の店舗で仕事をするようになってからは、どういう理由か、彼は僕と一緒に行動するようになり、仕事外でも一緒にいる時間が増え、他の人間には見せないようなフランクな態度で僕に接してくるのだった。「同じ歳だから、気が楽なんだろ」と当時の店長は言った。


 話を僕に移す。僕は一浪したこともあるのか、もしくはそんなこと関係ないかもしれないが、まわりには年下の人間がとても多い。そして、仲が良かったり、よくつるんでいる連中は、たいてい年下である。これは、僕が東京に出てきてからの人間関係のとても顕著な傾向だ。まあ別に人との付き合いに、年齢のことなんて気にはしないのだが、僕の場合は男も女も年下の人間と仲良くなることの方が圧倒的に多いことは紛れもない事実である。


 僕と彼は、性格的にもそんなに馬が合いそうにないし、当時のバンドの音楽性もまったく違っていた。まあ、彼は僕らのバンドをよくほめてくれしライブにも来てくれたたが、僕は彼のバンドにあまり興味はなかった。九州男児の熱い彼に対して、僕は雨ばっか降ってじめじめしてる裏日本の人間だ。そんな僕らであったが、「同じ歳」というただ一点だけにおいて、お互いがとてもニュートラルに話しができる相手となっているのだろう。それは昔も、そして、かなりのブランクこそあったが、今日でもそれは続いていたようだ。


 今日の目的であった議題に対しては「保留」という結論が出たので、帰ることにした。あまり接点がなくなったので、会うことも少なくなったが、まあ必要があればいつでもまた会えばいい。とてもフランクに、とてもニュートラルに。