デジタル生命



『パワー・オフ』井上 夢人


 また井上夢人にやられたね。もうこれまた最高傑作とも言える名作だね。まあ、ざっくり言うとコンピューター・ウイルスの話なわけだが、これが1994年に書かれているという事実が一番の驚きだよ。だってさ、ウインドウズ95すらまだ世の中に出回っていない時代だからね。


 でさ、この作品を読んでるうちに思い出したのが、瀬名秀明の『BRAIN VALLEY』だね。こっちの方も似たようなテーマだったと思うんだよ。感覚的にはね。つまりさ、生命とコンピューターってものをリンクさせた話なんだ。僕ら人間の身体の中で起こっている細胞や脳の働きと、パソコンを起動させているプログラムやネットで世界中の情報を繋いでいるネットワークって、まったく一緒なもんじゃないのか、ってそういった部分を突いている物語だってことだね。まあ、『BRAIN VALLEY』は随分昔に読んだ話だから、僕のメモリ上ではいささか劣化してしまった部分もあるけど、瀬名秀明って人は生物学的なアプローチをする人で、井上夢人はパソコン好きな作家だから、どちらかと言うと『パワー・オフ』の方がインパクトが大きくわかりやすかったかな。まあ、瀬名さんの本は専門的過ぎて、少々骨な部分もあるしね。


 まあとにかくだね、ネットとかパソコンとか、特にプログラムをやってる人間なんかは『パワー・オフ』とか『BRAIN VALLEY』を読むとおもしろいんじゃないかな。まあプログラムなんてさっぱりわかんない僕が言うのもおこがましいけどね。でも、インフルエンザ・ウイルスの話題が熱いこの時期は読み応えもあるんじゃないかな。