「せつなさ」



アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂 幸太郎


 中盤までは、正直だらだらと読んでいたんだよね。だらだらとね。これまで『重力ピエロ』『死神の精度』と読んできて、感銘を受けた伊坂幸太郎だけど、まあまあ、こんなもんかな。でもまあ半分以上読んだし、最後まで付き合おうかな、なんて温度感でね。でもね、こっからよく聞いてくれよな。ラストの神展開には、まじしびれたね。終盤7回裏から8点差をひっくり返す大逆転劇、みたいな。僕は思ったよ、「せつなさ」というものを文学で表現するとしたら、こういう形になんるんだろうなってね。いや、決して大袈裟に言ってるわけじゃないんだよ、別に。僕はこれまで、「せつなさ」を具現化している作家として乙一を筆頭に思い浮かべてたのだが、いやはや、今後は伊坂幸太郎の名前も挙げないわけにはいかないね。


 乙一のようなせつなさと、村上春樹のようなメタファー。そして井上夢人のような展開力。なんて言うと、褒め過ぎかもしれないけど、これらの作家にちょっとでもピンときた人は、チェックしとくといいよ。伊坂幸太郎の文学をね。