中竹竜二著『監督に期待するな』感想


 中竹さんは、僕がこの上なく尊敬してる人の一人だってことは君も知ってるよね。前早稲田大学ラグビー部監督で、2006年シーズンから2009年シーズンまで指揮をとり、自称「日本一オーラのない監督」として、2007年、2008年の大学選手権の連覇を成し遂げた名監督だよ。中竹さんは、1996年度の早稲田ラグビー部のキャプテンをつとめていたとはいえ、その後はごく普通のサラリーマンとして生活してたところに、急に監督の要請があったらしいんだよね。指導者経験もなく、いきなり監督で、血気盛んな学生界のトップに君臨しているラガーマンを統率したってんだから、驚きだよ。しかも、前任の“カリスマ”清宮氏とは、まったくをもってして正反対の“オーラのない”キャラクターなのにさ。でね、僕がさらにたまげたのは、中竹さんがワセダの監督を引き受けたのが33歳のときだってことだね。つまりさ、今の僕と似た様な年齢でサラリーマンから監督になって、トップ・レベルの戦いをしてたって話だよ。ということはさ、どっかのチームの監督ってのは「自分よりずっと年上の人」って勝手に思ってたけど、自分はもうどっかのチームの監督に成りうる年齢に差し掛かっているってことだよ。


 でね、思い返してみると、僕が去年、中学生の部活のコーチを引き受けたことと類似していることに勝手に親近感を抱きつつ、そこで成し遂げた成果は中竹さんのスケールの足元にも及ばないなって惨めになったんだ。そもそも僕なんて、中学生ですらまったく面倒見切れなかったしさ。


 てかね、そこから気づいちゃったんだけど、中学、高校、大学と、上の環境に進んでもスポーツを続けた人間の経験値ってのは格段に違うんだなってね。経験値ってのは人としての経験値じゃないよ、そのスポーツを深く知ったという経験値ね。だからね、僕は中学レベルじゃそこそこの結果を出したかもしれないけど、それは所詮中学生レベルなんだよ。別にたいして上手じゃなくても、遊びやサークル気分であっても、高校や大学、そして社会人になってもバレーを続けてる人間は「深み」があるわけだよ。人間として大人になってるから、ひとつのスポーツにしても見え方や感じ方が違ってくるんだよ。少し前に僕が書いた野球の話みたくね。


 別に自分が中学のときにやってきたことを否定してるわけじゃないよ。あの経験は今でも僕という人間の芯の部分に影響してるわけだけど、「バレーボール」という一点に絞って考えると、やはり長くバレーに携わった人間の方が、他人にバレーを伝えるときに語ることができる表現をたくさん持ってるんだよね、きっと。大きな舞台で活躍したしないは、まわりが口にするだけの事柄であって、本人の度量には関係ないんだ。だから、大学でもキャプテンだった中竹さんと中学で燃え尽きた僕とで比較すること自体がナンセンスなんだよ、そもそもね。サラリーマンうんぬん、指導者経験うんぬん、関わらずね。


 だからね、環境が変わっても続ける、環境が変わったからこそ違った視点を持って続けていくという大切さを、今さらながら中竹さんから教えてもらった気がするよ。


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◆中竹竜二 信は力なり。<Number Web