嫌われる職業


 小学校のときの何気ない会話のひとつで覚えてることがあるんだ。「オレは絶対“先生”にはなりたくないな」って言うんだよ。僕の友達がね。つまり、将来の職業についての話だよ。「だってさ、どんなに人気のある先生だって、絶対どこかで悪口言われるからな、先生ってのは」と、理由を付け足したわけさ。当時、僕もそれに同意し、やっぱ嫌われる職業とか厭だな、だから先生にはなりたくないなとずっと思っていたわけさ。



 でね、実際それから10数年経って、自分も社会に出て、そこからさらに数年経ってみて、はっと気づいたんだけど、ああ、世の中に他人から嫌われない職業なんてないんだって痛感したんだ。というか、そもそも小学生が考える「嫌う」「好かれる」という価値観が偏っているんだろうけど、誰かに煙たがれたり憎まれ役を買って出たりすることなく、お金儲けなんてできないんだよね。むしろ、他人から嫌われるポジションを買って出てる人ほど、評価されるわけだよ。まあ、誰もやりたがらない仕事であれば、希少価値が生まれ重宝されるって市場原理と同じだね。


 脚光を浴びるイケメン俳優も不思議ちゃんタレントも人気議員も有名監督も、必ず誰かから大なり小なりの恨まれ方をしてるはずなわけさ。それは、どこかの小学校の先生と同じようにね。でもね、この誰もが「他の誰かから嫌われる」という普遍性に気づかない大人ってのが、欝になったり、引きこもったりするんだろうね。他人からの目線を異常に気にしちゃうタイプのことだよ。だから、あんまり嫌われることや煙たがれることを意識しすぎることはないんだよね。好きでやってることなら、堂々としればいいってことだよ。