福田和也著『乃木希典』感想


 自分の誕生日を検索してみたことは、君もあると思うんだ。つまり自分の生まれたのと同じ日に、どんな有名人、著名人が生まれたか、また歴史上どんな出来事があったかなんてのは、ウィキペディアなんかを通してある程度知ってるはずだよね、きっと。でね、僕の場合は、というか「9月13日」という日は、とある歴史的出来事があって、これはもう「9月13日」という日を象徴する一大事として、もうしょっちゅう厭になるほど目にしてるんだよね。「明治天皇の大葬、そして乃木希典大将の殉死」ってね。


 それに加え、夏目漱石の『こころ』が、乃木希典の自決は作品の大きなベースとなってることもあって、僕は自然と乃木希典」という人物に惹かれていたわけだよ。この気持ってのは、わかってくれるよね。


 とはいえ僕は日本史を必修してなかったんで、乃木という人物が何をした人なのかは、さっぱりわからなかったんだよね。『こころ』の中での、明治天皇の死は明治の精神の死とか言って、後追い自殺した人くらいの知識しかないわけさ。でも、漱石の作品に登場するくらいだだし、「乃木坂駅」なんて地下鉄の駅もあるくらいだから、「明治と言えば、乃木」というくらいの相当なカリスマだとイメージしてたんだよね。で、勝手なヒーロー像を描き出しておいて、それ以上突っ込んでは調べたりしなかったんだよね。


 そんなこんなで、司馬遼太郎の「坂の上の雲NHKではじまったんで観てたんだけど、どうも「乃木」の存在感が頼りないわけさ。で、歴史に詳しい友人に訊ねると、「司馬は、アンチ乃木で、乃木を愚将と位置づけている」ってんだよ。驚いちまったよね。乃木が愚将だとってね。というか軍人だということも、このとき知ったんだけどね。


 で、少しまじめに調べてみようと思ったんだけど、どうも乃木の評価ってもんは二分されてるんだよね。愚将であったり、名将であったりと。まあ象徴的なのは「坂の上の雲」でも描かれた、日露戦争で参謀として赴いた旅順で多くの死者を出した戦いだよね。最終的には勝利をおさめるんだけど、この指揮の是非に関しては、徹底的に意見がわかれるよね。どんだけ兵士を死なせてるんだよ、であったり、ここで勝利するとはさすが、であったりとね。


 で、戦争から戻ってからは、明治天皇の勅命で、学習院大学の学長にもなってるんだってさ。天皇家の人々が学習院系列の学校に進むことくらいは君も知ってるよね。つまりさ、明治天皇から、一族の教育を任せられるくらいの教育者としての顔も持ってるわけさ、乃木希典って人間はね。でもね、この教育方針も一定の評価があるわけではなく、志賀直哉芥川龍之介など白樺派と呼ばれる作家たちは、乃木の教育というものを強烈に批判してるんだよ。


 つまりね、僕が思うに、乃木希典って人間はすこぶる不安定な人間だったってことだよ。まあその辺の人間性も、この本には紹介されたよ。ダブルスタンダードって言葉でね。まあ、結論としては、どうも掴みどころのない、不思議な人間だなっていう曖昧な印象だったね。そういう意味では、僕に似た、好きにはれないけど親近感のわく人かもしれないなって思ったよ。ちなみに、乃木殉職の9月13日ってのは1912年。つまり今年でちょうど100年経つってことだね。そんな2012年、最初に読み終えた本が『乃木希典』だってことも何か感ずるものがあるよ。


 まあ、まとめるとだね、僕の場合はたまたま乃木希典だったけど、君も自分の生まれた日に関わりのある人なんかを、かっぽじって調べてみるのも良いと思うよ。何か不思議な、運命的な繋がりってのがあるかもしれないからさ。


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価格:480円(税込、送料別)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
旅順で数万の兵を死なせた「愚将」か、自らの存在すべてをもって帝国陸軍の名誉を支えた「聖人」か?幼年期から殉死までをつぶさに追い、乃木希典の知られざる実像に迫る傑作評伝。日露戦争開戦100年後に書かれた本書は、従来の乃木像をくつがえすとともに、「徳」を見失った現代日本への警告ともなっている。

【目次】(「BOOK」データベースより)
1 面影(マッカーサーが植えたハナミズキ/「有徳な人間」になりきること ほか)/2 国家(吉田松陰の「優しさ」/軍人になるか、学者になるか ほか)/3 徳義(「薩摩の娘ならば貰いましょう」/乃木夫妻の緊張関係 ほか)/4 葬礼(武士道よりも厳しい道/「徳」によって国民の信任を得る)

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
福田和也(フクダカズヤ)
1960年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。慶應義塾大学教授。文芸評論家として文壇、論壇で活躍中。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子文学賞、2002年『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)