今枝由郎著『ブータンに魅せられて』感想


 少し前にブータンの国王夫妻が来日したのは君も覚えてるよね。で、やいのやいのと注目されてたんで、ブータンについての本を借りてみたんだ。てかね、そもそも君は「ブータン」なんて国が存在してること知ってたかな。僕は、伊坂幸太郎氏の小説アヒルと鴨のコインロッカーで、ブータンという変わった国についてのくだりがあったことで、かろうじて名前だけは知ってたけど、それ以上の知識は何もなかったね。てか、僕はブータンって小説上の架空の国家か、もしくはもう滅びた国だと思ってたくらいだけどね。


 まあともかくね、この本は前国王時代のことを中心に書かれており、かつ旅行記のようなトーンだったので、少し僕が知りたかった内容とは少し違ったんだよね。だから正直さっと読み流した感もあるかな。正直ね。


 しかし、もし今ブータンに関しての本が出るなら、きっと多くのページは「国民総幸福度」に関しての記述になると思うんだけど、この本は2008年に書かれていることもあって、「国民総幸福度」には、そこまでウエイトを置いてなかったんだよね。そこが良かった点だね。というのも「国民総幸福度」ってのは、大きく注目された概念だけど、僕には疑問符付きだったんだよ。そんなに幸せな国だったらもっと知名度や注目度はあるだろ、国王がやってきてはじめて知られるくらいマイナーな国が世界一幸せなわけないだろってね。


 でね、本を読み進めているうちに感じたんだけど、やっぱり途上国であるにも関わらず国民が幸福だと感じるとういうことは、それだけ楽観的であり、悪く言えば、いい加減で適当で無知であることなんだよね。で、いくら幸福だとはいえ、それなりの生産とそれなりの収入がなければ国としても成り立たないわけだからね。ギリシャみたく崩壊すると。幸せと感じるから万事オーケーなんて甘くはないわけさ。だから、ブータンという国にはもちろん魅力は感じるけど、「羨ましい」という感情は湧いてこなかったかな。


 国王夫妻が帰国したあと、日本でも「幸福度」をはかった調査やアンケートなんかをやってた気がするけど、もうそれっきりブータンとか幸福度って一時のブームとして過去のお話になってるよね。つまりさ、日本って国は幸福よりも競争が好きなんだと思うよ。根っからね。歯を食いしばって齧りついて成し遂げることを欲してる民族なんだよ。だから宗教や神様なんて不必要で、自分たちの力で何とかしてやるって精神がお好みなんだ、きっと。まあ、目下、諸々の障害やトラブルが多すぎて、何もかもそれどころじゃないってのが正に今現在の日本なんだろうけどね。


【送料無料】ブ-タンに魅せられて

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価格:777円(税込、送料別)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
「国民総幸福」を提唱する国として、たしかな存在感を放つブータンチベット仏教研究者として長くこの国と関わってきた著者が、篤い信仰に生きる人びとの暮らし、独自の近代化を率いた第四代国王の施政など、深く心に刻まれたエピソードをつづる。社会を貫く精神文化のありようを通して、あらためて「豊かさ」について考える。

【目次】(「BOOK」データベースより)
1章 遥かなるブータン-雲上の国をめざして(ブータンとの出会い/インド国境を越える)/2章 仏教が息づく社会-ブータンでの暮らし(首都ティンプに住む/新しい国立図書館を建てる/「拝む」ことと「鑑賞」すること/目に見えるもの、見えないもの)/3章 陽気に、おだやかに生きる-ブータンの人びと(恩師ロポン・ペマラのこと/ブータンの時間/素描-ブータン人気質/第四代国王とブータン社会)/4章 ヒマラヤが聳え、雨雪が降り、森林が茂る限り-独自の近代化への挑戦(国民の利益が最優先/伝統文化の位置づけ/豊かな森林を守る/上からの民主化/国際社会のなかで)/終章 ブータンはどこへ向かうのか-「国民総幸福」という理念(人間の価値を重んじた発展を/精神の文化を考える)

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
今枝由郎(イマエダヨシロウ)
フランス国立科学研究センター(CNRS)研究ディレクター。東洋仏教史(とくにチベット仏教史、ブータン史、チベット歴史・文献学)。1947年愛知県生まれ。大谷大学文学部卒業。フランスに渡り、パリ第7大学国家文学博士号取得。1981-90年ブータン国立図書館顧問としてブータンに赴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)