『ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 』感想

 生命の「連続」を保証するために、個体にとって「不連続」となる「死」が細胞に組み込まれたことは、一見、矛盾しているようにも見えるかもしれません。しかし地球の環境が変わりゆくなか、生物の個体を通じてしか存続できない遺伝子にとって、生物を環境に適応させていくには「性=遺伝子の組み換え」と「死=遺伝子の消去」を伴う仕組み以上によい方法はないのかもしれません。

 実際、地球上に存在している多細胞生物すべてが細胞死のシステムを持っていることを考えると、「死によって生を更新する」ことが、時空を超えて生命を遺し伝えるために、最も効率的かつ効果的な手段なのではないかと思われます。


 この世の中に「死」に関心のない人間なんて断じていないだろうね。自分の死に対する恐怖であったり、家族や友人の死に対する哀傷であったり、死後の世界への好奇心などなど……。だから「死」とは何たるかという哲学は数限りないくらい存在するよね。まあパッとは思いつかないけど、たくさんあると思うよ、君もそう思うだろ。


 ちなみに僕がこれまでにもっとも感銘を受けた死に対する表現というものは『ノルウェイの森』で登場した言葉だね。

死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。


 君も『ノルウェイの森』を読んでたら、このセリフは覚えてるよね。親友の死を経て、主人公がもらすモノローグだよ。当時、二十歳くらいで、まだ自分のまわりで大きな死というものに出くわしていなかったわけだけど、この言葉には力強いリアリティと説得力を帯びていたことを今でも覚えてるね。


 まあともかくね、『ヒトはどうして死ぬのか〜』の中では、科学的なアプローチをすることで、より説得力のある「死」というものの捉え方が紹介されてたね。この辺は、知識としてぜひ頭に入れておきたい事柄だと思うな。で、そう言えば似たようなことが、養老孟司先生の『バカの壁』だったか『死の壁』だったかにも書かれてなと、思い出したね。人間は絶えず新しい自分になるという更新作業を行っていると。だって、昨日の自分と今日の自分ってのは少なからず違う生き物だよね。24時間という時間の中で、得たものやすり減ったものがあり、今の自分になったと。つまり昨日の自分はもう死んでおり、今日の自分は新しくなってる。そんで明日になれば、今日の自分は死んで明日の自分が最新バージョンだと。つまり、「死」という現象はとても身近にあり、しごく自然な日々のステップのひとつだということだね。そもそも細胞というものが、そういう風につくられているわけさ。成長・進化するために、古いものを捨てる・死なすってね。このサイクルを繰り返すなかで、本体もいつかは死を迎えるというわけさ。だから、成長する代償として死があると考えると、死に対する得体のしれない恐怖感ってのは幾分和らぐ気がするんだよね。


 細胞という見えない世界だけでなく、同じようなことは、身のまわりでもやってるんだよね。たとえば、iPhone5がリリースされたら、君は今持ってるiPhone4や4Sを売っ払って5を買うよね。3のまま粘ってた人ならなおさらだよね。こうやって、自分の一部といえる部品を新しい高性能のものに買い替え、入れ替えしてくのが自然な行為なんだよね。細胞も一緒。今の環境に合った細胞が生まれ、昔の環境に合った細胞は捨てられていく、つまり死んでいくと。


 まあ、科学が、より「死」を明確に証明、定義してくれると、そのうち宗教も必要なくなるのかもしれないね。余計な解釈や救済をナニかに求めることもなくなるからね。そんな風にも感じたな。


【送料無料】ヒトはどうして死ぬのか

【送料無料】ヒトはどうして死ぬのか
価格:756円(税込、送料別)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
地球上に生命が誕生してから約20億年間、生物は死ななかった。ひたすら分裂し、増殖していたからだ。ではなぜ、いつから進化した生物は死ぬようになったのか?ヒトは誕生時から「死の遺伝子」を内包しているため、死から逃れることはできない。「死の遺伝子」とはいったい何なのか?死の遺伝子の解明は、ガンやアルツハイマー病、AIDSなどの治療薬開発につながるのか?細胞の死と医薬品開発の最新科学をわかりやすく解説しながら、新しい死生観を問いかける画期的な書。

【目次】(「BOOK」データベースより)
まえがき 私がなぜ「死」の謎を追うのか/第1章 ある病理学者の発見/第2章 「死」から見る生物学/第3章 「死の科学」との出合い/第4章 アポトーシス研究を活かして、難病に挑む/第5章 ゲノム創薬最前線/第6章 「死の科学」が教えてくれること

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
田沼靖一(タヌマセイイチ
1952年山梨県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。米国国立衛生研究所(NIH)研究員等を経て、東京理科大学薬学部教授。専門は生化学・分子生物学。同大ゲノム創薬研究センター長。細胞の生と死を決定する分子メカニズムをアポトーシスの視点から研究している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)