米原での座席回転


 金沢から名古屋に電車で移動するとなると米原経由でのコースになるわけさ。で、米原に着いて、再度名古屋に向けて発車する前に、何故か進行方向が逆になるんだよね。ので、乗客が座席の向きを変えるっていう作業が発生するんだよ。道中、眠っていようが、音楽を聴いていようが、たそがれていようが、米原では皆一旦座席を立って、自分の座っているシートをぐるりと回転させるという行事が行われるんだ。



 僕はこの作業が厭だったんだよ。まあ普通にめんどくさいし、なんか前後の客とのタイミングを合わる必要もあるのが煩わしく思えてね(リクライニングを倒していると、引っかかって回転できない)。でも、この前の米原で「お客様はお手数ですがお座席の向きを変えてください」みたいな車内アナウンスが入り、各乗客が冬眠から目覚めたクマのようにむくむくと立ち上がって、「あ、では、やりますか」みたいな目配せをして、「あ、どうぞお先にグルりとやってください」みたいな空気を発して、座席をグルりとやって、「どうもどうも」みたいに会釈をして、席について、また個の世界に戻っていくという一連の共同作業に、ぬくもりのようなものを感じて、ほっこりした気分になれたんだよね。こういう一瞬の「ふれあい」も、良いもんかもなと思ったね。


 まあ、たまたまこのときは1人で暇してるなかのイレギュラー作業だから、素直に受け入れられたのかもしれないけどね。でもこういう共同作業に似た何かってのは、他人を他人じゃなくしてくれるよね。学校の文化祭だったり、地域のお祭りだったり、結婚式のケーキカットだったりって中に、米原での座席回転ってのも並べて入れておきたいね、心がひとつになる定番イベントとしてね。