サリンジャーの死、ホールデンの名言


 多分ね、2002年だと思うんだけど、この年は16回くらい「ライ麦畑でつかまえて」を読んだんだ。当時は野崎孝氏の訳書だね。でね、そのときに帳面にメモった「ライ麦の名言」をここに記しておくよ。追悼の意を表してね。

自分のせりふがすごく気に入ったんだな。気違いみたいに笑いだしたんだよ。

そう言って僕は首を振った。僕はよく首を振るくせがあるんだ。そして「チェッ!」って言った。「チェッ!」って言うクセもあるんだ。

この先生は、人が話していると、決まって口を入れやがんだ。

まだピンと来ないんだと思うんです。僕は何でもピンと来るまでに時間がかかるんですよ。

僕たちは握手をしたんだな。握手とかなんとか、くだんないことをさ。

こいつはいつも同じことを二度言わせるんだな。

ズボンがぬげそうなほどおかしがるんだ。

僕のところへやってくると、両方の頬っぺたを、ふざけ半分にぺたぺたと二つばかし軽く叩きやがった――こいつをやられると、場合によってはすごくイライラすることがあるよね。

栓をひねって水を出したり止めたりやり出したんだ――こういう落ちつきのない癖があるんだな、僕には。

「おい、彼女におれからよろしくって言ってくれよな?」
「いいよ」とストラドレーターは言った。しかし、おそらく言わんだろうということは、僕にはわかっていた。

僕は、女の子を、機会さえあったらとことんからかうのが好きなはずなんだけど、それがおかしんだな。僕の一番好きな女の子はみんな、あんまりからかいたい気持を起させない奴らばかしなんだ。

おかしくなもなんともないものを、ハイエナみたいな声をあげて笑ってたりしてたな。

彼の場合、何を言っても何かに腹を立ててるみたいに聞こえんるんだな。

「どうして家で寝てねえのかね?」
「疲れてないからさ」

地獄のコウモリみたいに車をぶっとばして行っちまった。

これがいつも僕には参るんだな。会ってもうれしくもなんともない人に向かって「お目にかかれてうれしかった」って言ってるんだから。でも、生きていたいと思えば、こういうことを言わなきゃならないものなんだ。

それがいい声なんだな。電話向きのいい声だったよ、全く。こういう人は電話を携帯すべきだと思うね。

僕はとても意気地がないんだから。努めて外にはそう見えないようにしてるけど。

人間すっかり気が滅入ってるときには、考えることができない。

「自己紹介をさせてもらおう。――」
「あんた時計持ってる?」彼女はそう言った。僕の名前なんてどうだっていいんだな。

二週間ばかしで、王様の身代金ほどもの大金を使った勘定になる。

このブルジョアってのが彼の愛用の言葉なんだ。どっかで読むか聞くかしたのさ。

うまく説明できないけどさ。いや、かりにできるにしても、説明する気になるかどうかはわかんないな。

会いに来る女の子がすてきな子なら、時間におくれたからって、文句をいう男がいるもんか。絶対にいやしないよ。

何でもそうだけど、あんまりうまくなるとだな、よっぽど気をつけないと、すごくこれ見よがしになっちまうんだ。

帽子にあふれるほどの大金をもうけるってわけだ。

君はラジオに出るべきだなあ。そんなにハンサムなんだからなあ。

死んでから花をほしがる奴なんているもんか。一人もいやしないよ。

シベリアのどっかで咳をするだけでいいんだ、それだけでもちゃんと聞きつけるんだから。

僕に向かってなんか言ったけど、聞き取れなかったんだ。

で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちてきそうになったら、その子をつかまえることなんだ――(略)そんな時僕は、どっかから、さっと飛び出して行って、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。でも、ほんとうになりたいものといったらそれしかないね。馬鹿げてることは知ってるけどさ。

僕は靴の紐もうまく結べなかった。それほどひとくびくついてたんだ。

たいして興味のないようなことを話しだしてみて、はじめて、何に一番興味があるかがわかるってことなんです。

◆米作家サリンジャー氏、91歳で死去<The Wall Street Journal, Japan Online (2010.01/29)


 小説「ライ麦畑でつかまえて」で知られる米国人作家J.D.サリンジャー氏が27日、ニューハンプシャー州の自宅で老衰のため死去した。91歳だった。

 代表作の「ライ麦畑でつかまえて」は1951年の出版当時旋風を巻き起こした。世界各国で翻訳され、6500万部以上を売り上げた同作品は20世紀を代表する小説にあげられることも多い。
(後略)