ナンバーに刻まれた700の名言。〜野球編


 Numberが700号記念号を発売している。その中に、これまでNumberに掲載された700の名言がまとめられているのだが、さすがの内容だ。この雑誌は決して僕を裏切らない。


 アスリートの言葉というものはどうしてここまで心に響くのだろうか。これがタレントや政治家や小説家の言葉であったら、ここまで強く僕の印象に残らなかっただろう。おそらく、肉体を武器とするアスリートが、その超人的な身体表現を、凡人も普段から使用している言葉に置き換えて吐き出している部分にしびれるポイントがあるのだろう。つまり、アスリートの言葉というのは、すべてすぐれた比喩表現なのである。ときには力強く、そしてときには美しい比喩。そんな個性あふれる言葉のなかから気に入ったものを紹介しようと思う。


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明大野球部の合宿所には、民主主義や自由主義という言葉はないの。あるのは、限りなく神に近い存在の鬼監督だけだ。
――島岡吉郎(明大野球部監督)

80年12月20日

 明治OBの野球選手がよく口にする島岡鬼監督(通称、オヤジだったっけ?)。今となってはこういう独裁監督というのは時代錯誤なのかもしれないが、一時代を支えた名将らしい言葉だと思う。まあ、実際島岡監督って詳しくしらないんだけどね。

良いキャッチャーがいないと、良いゲームは生まれない。動かない義経が、舞台の動きを作りだす。演劇の真骨頂でしょうね。
――尾上辰之助(歌舞伎役者)

81年2月5日号

 いかにも日本人的な考え方だなと。日本では、野球でキャッチャーというポジション重要視するのは、こういった「ワビサビ」的観念がベースとなっているからかもしれない。

ファンが痩せて、選手が太るのが阪神のスタイルや。
――上岡龍太郎

81年5月20日

 タイガースが弱小だったというのも今は昔の話。

セカンドというのは、信号のない銀座4丁目の交叉点で交通整理をしているようなもんで、これは忙しいですよ。
――千葉茂

81年7月5日号

 僕が野球をはじめて最初に憧れたのが、セカンドというポジション。でも、そんな器用な役回りは自分には向いてないと最近思っている。

勝てないゲームは負けてもいい。
――広岡達朗

83年3月20日

長嶋さんというのは、人の守ってないところへ打球がいく。逆に王さんは、人が大勢いるところへアーチを描いていく。
――星野仙一

85年3月20日

 何かと比較対照されるON。僕はONの現役時代を知らないのだが、この比較も秀逸だと思うね。

タイガースは、私にとって血であり肉であり生命だ。
――村山実

85年11月5日

女は強い男についてくる。
――清原和博

86年3月20日

遅かれ早かれストライクは投げなくちゃならない。それを打てばいいんだから。
――清原和博

87年1月20日

俺はラクして勝てと言うんだ。苦労して勝つな、笑って結果を出せ。
――落合博満

87年4月20日

 僕は落合のこういう合理的な性格が僕は大好きなのである。いかに最短距離でゴールできるかという考え方。

敬遠の球を打ちに行ったのは、抗議とか抵抗とかではなかったんですね。あれは、僕にとってストライクであったと。
――長嶋茂雄

88年5月20日

どこの球場でも場外まで運んでやろう、それがひとつのロマンだと思って野球やってきた。
――門田博光

88年10月20日

 僕は門田選手に対して、DHでホームランをバカバカ打つ選手というイメージが強かったので、太ったでっかいおっさんだと思っていたが、実は身長160センチ程度のちっちゃいおっさんだったようだ。「ホームラン狙いをやめれば4割打てる」とも述べているように、長打にこだわる小柄な選手だったとこを知ってから、僕は門田選手にとても好感を持つようになった。

「世界平和のための立派なピッチングができますように」と言いながらマウンドまで歩いていくんです。
――桑田真澄

90年6月5日号

 そこまで考えなくてもいいと思うけどな。

打たせて取るなんて器用なことできないです。
――野茂英雄

90年7月20日

江川君のボールには“江川”とはっきり名前が書いてあるんですね。
――掛布雅之

91年7月5日号

狙ったら、誰でもある程度は打てますよ。狙わんでも打つところに価値がある。
――前田智徳

93年9月5日号

 ときに天才の言うことは、深すぎて意味が分からないときもある。

ビジターの球場でライトスタンドから応援してもらったら、気持ちいい。でも、ビジター球場で黙らすことができたら、もっと気持ちいい。
――イチロー

96年9月12日号

 かの有名な「レーザービーム」もビジター球場で披露したもので、もちろん相手チームのオーディエンスは黙りこくったわけである。

グラウンドの中は、劇場でいえば、舞台の上と同じでしょ。そこで演じてる人は、すべてカッコよくなければいけない。
――イチロー

97年4月10日号

キャッチボールをしっかりやらせたい。キャッチボールは技術だけでなく、心のやり取りでもあるのですから。
――権藤博

97年11月20日

 手垢の付いたような言葉だけど、野球選手が、ましてや一チームの監督がこういうことを言うと、またそれなりの奥深さと説得力があるような気がする。

ピッチャーは一球で地獄を見る。バッターは一振りで天国へ上がれる。しかもピッチャーは一球では天国へ上がれない。
――江夏豊

98年4月23日号

 ピッチャーはたしかにご苦労の多いポジションだと思う。それでも、多くの野球選手が憧れ、多くのオーディエンスの視線を集めるのも事実。それだけ魅力のある仕事なんだと思う。

ボールというのは、バットに当たった時に捉えるものではなく、投手の手から離れた瞬間に捉えるものなんです。
――イチロー

00年4月20日

僕はね、バッターが「よし」と思って打ちにきたのに、あえなく凡退して首を捻る仕草に快感を感じるんです。
――小宮山悟

00年6月1日号

 僕は小宮山選手みたいなふてぶてしい選手が大好きで、こういうひねくれた考え方をするピッチャーも大好きである。

ホームランというのはボールが小さく見えるんですよ。打った瞬間、ポッと、ボールが小っちゃくなる。
――松中信彦

00年12月14日号

 この特集の言葉の中で、もっとも共感できた言葉のひとつ。長打を打ったときというのは、たいてい自分の視界から打球が消えるのだ。なんとなく自分の打球を目で追えているときは、たいてい外野手に捕球される。だから、自分が打ったボールがどこに飛んで行ったかわからないまま走るときの快感といったらたまらないものがある。

日本の野球はチェスや武道に似たものがある。
――タフィ・ローズ

02年8月1日号

セカンドで求められるもの。それは、何事も“当然のようにこなす”こと。
――仁志敏久

03年10月2日号

器用な人は、もう一工夫、地道な努力が足りないことが多いので、長期戦になれば最後は必ず不器用が勝つんです。
――野村克也

04年2月5日号

僕には座右の銘がないんです。
――古田敦也

05年7月28日号

記録は、破りたいです。48勝でしたっけ?
――斎藤佑樹

07年3月15日号

 この48勝という数字は、六大学野球の通算最多勝利記録数。法大の山中という、田淵、山本浩司の一年後輩にあたるピッチャーが刻んだ記録。ちなみにその法大の後輩にあたる江川が47勝。今年ヤクルトに入団した慶大の加藤が30勝。ソフトバンクの和田(早大)が27勝。やはり昔の投手の勝ち数って半端なく多いよね。
 斎藤は1年で8勝をマーク。背番号「1」を背負う2年目から、斎藤はどれだけ勝ち星を重ねることができるのだろうか。


◆Number